『安達太良山の恵 大玉のイワナ』
2006年5月
木々の芽吹きが初夏へと向かう速度を肌で感じられ、山々の新緑も一段と深みを増し、鮮やかに映る季節になりました。さて、今回は郡山の近郊で養殖されている「イワナ」についてご紹介しましょう。安達太良山の麓に小沢稔さんが営む大玉養鱒場があります。 小沢さんは、静岡から移り住んで34年。当時、原野であったところを整地し、上流の安達太良山から湧きでる水源を利用し、自ら虹鱒の卵を人工受精・孵化させ、稚魚から成魚まで一環生産しています。養殖業界では、イワナの人工孵化と養殖に成功し、一目おかれた存在の方です。その小沢さんの半生をかけた事業の苦労話は、たくさんあります。 谷の渓流を水源としている為、雷雨や台風の時は増水し濁流が魚のいけすに流れ込みます。この濁った水は、魚のエラに入り込み呼吸困難を起こして死に至ります。小沢さんは、魚を守る為、徹夜で水を止める作業をしつづけました。また、当時では難しいとされていた「イワナ・やまめ」の養殖も軌道に乗せ、安定供給が可能になりました。 また生産だけではなく、自ら育てた魚を釣堀で釣らせ、釣った魚を塩焼き・唐揚げ・刺身などで食べさせ、消費者と触れ合うことにより、食べ方や消費者の求めるものを魚の生産に反映させ、さらなる良質の魚づくりに取り組んでいます。昨年から、北海道の清流にしか生息していない幻の魚「イトウ」の一貫生産を成し遂げ、出荷を始めました。
笑った小沢さんの顔には、深いしわが浮き出ます。しわの数だけ困難を乗り越えて来たのです。我々の身近にある山の中の養殖場の物語。65歳の小沢さんの次の挑戦は、「会津雪鱒」だそうです。物作りにかける男の浪漫。塩を利かせたイワナの炭火焼きを食べると、安達太良山の渓流のせせらぎが聞こえてきそう。